インフレ上昇による影響
物価上昇率が過去数十年で最も高い水準に達しており、インフレは投資家と消費者の双方にとって世界的に重要なトピックとなっています。このことは経済成長、市場金利、そして不動産市場にどのような影響を与えるのでしょうか。
グローバル不動産市場見通し
地域別の展望
英国
欧州大陸
アジア太平洋地域
投資戦略
出所:M&G Real Estate、2022年5月
景気後退やスタグフレーション(景気後退のなかでの物価上昇)などの経済リスクを乗り切るのは容易なことではありません。中央銀行の政策を通じてこれがどのように展開されるかを投資家は注視していますが、戦争収束がどのように進展するかに大きく左右されると思われます。 インフレと金利の上昇は、負債や建設コストの上昇から資産の再調達の可能性まで、不動産投資家に複数の課題を突きつける可能性があります。しかし、不動産の利回りは、対国債比で高い利回りを提供しています。 また、実物資産である不動産、特にキャッシュフローの増加が期待できる不動産投資戦略は、下振れリスクが顕在化した場合の耐性があるなど、インフレに強い特性を備えています。 この展望では、インフレに強いポートフォリオの構築について詳しく説明し、世界の不動産動向に関するM&Gの見解を地域別に紹介します。
世界経済の堅調な回復を経て、2022年はインフレに悩まされることになりました。ウクライナ戦争は不確実性を高め、エネルギー価格を中心とした物価の急騰を招きました。これにより、生活費も高騰しました。
投資元本は変動し、投資から得られる利益は上昇することもあれば、下落することもあり、お客様の投資元本は保証されません。 数値は過去の実績であり、将来の結果を示唆するものではありません。また、情報は今後変更されることがあり、将来の結果を保証するものではありません。
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賃料が指標に連動することが契約で明示されていないかぎり、高インフレ環境下では、賃貸収入の伸びがインフレ率に追いつかない可能性があります。賃料が上昇傾向にある市場・物件において、短い間隔で賃料が改定される契約は、インフレ率に応じたインカム収入向上が見込まれます。
英国、欧州、アジア太平洋地域のいずれにおいても、物流スペースに対する構造的な需要が続いているため、供給量の少ない市場において賃料はさらに力強い伸びを示すと思われます。しかし、リスクプレミアムが十分に織り込まれていない利回りは、下振れリスクが顕在化した場合に脆弱になる可能性があります
世界の多くの主要都市の中心部では需給が逼迫しており、ロンドン、ベルリン、ソウルなどの都市におけるハイブリッド勤務に適応した質の高い最新のオフィス物件は、高いテナント需要が見込まれ、賃料の大きな伸びが期待されます。
ホテル業界は、パンデミック収束に伴う旅行・観光業の回復による力強い成長が見込まれるため、インカム収入の増加が期待されます。賃料が指標に連動した賃貸借契約のホテルは、強い耐性とインフレに強い特性を提供します。
経済の最先端の技術を扱う施設は、常に新しい資本と才能を惹き付けており、ライフサイエンス・テクノロジー企業のオフィス、学生・労働者の住宅など、さまざまな分野の不動産に強い成長が期待されます。
リテール分野のなかで、通常は利便性の高い場所に所在し、電子商取引の勢いに対抗できる条件を備えている分野です。また、コストの上昇を賃料に転嫁することが可能と考えられます。
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ネットゼロへの取り組みの強化により、高いESG評価を受けている物件に対するテナントと投資家の双方からの需要は非常に強く、賃料と物件価格の上昇が大きく期待されます。
インフレ率に応じて賃料が決定される、ディフェンシブな特性をもつ分野です。
賃料が契約で明示的にインフレ指数に連動している物件は、 景気が低迷しているときでもインフレを克服することができます (テナントが賃料の支払い能力があるということが前提)。
指標連動賃料契約・強固なコベナンツ
民間賃貸住宅、学生向け住宅、高齢者向け住宅、手頃な価格の住宅はどれもディフェンシブな特性を備えており、基本的に賃料はインフレ率に連動します。
成長の種が逆風環境の克服に寄与する
英国の不動産市場では、パンデミックによってオンライン消費がさらに加速し、物流業者はブレグジットによって既に混乱のあったサプライチェーンネットワークを強化しようと躍起になっていることから、物流市場がここ数十年で最も熱気に満ちているのを目にします。 しかし、英国の消費者が生活費上昇を実感し始めると裁量的な支出に対して財布の紐が固くなる可能性があります。また、体験消費 支出(商品・サービスを利用したときに感じる心理的・感覚的な価値) は、ロックダウンが終了したことで、商品に勝る可能性もあります。 消費者が電子商取引を減少させたのは今回が初めてです。これは物流市場の熱を冷ますことになるのでしょうか。特に、利益が圧迫され、テナントが事業計画を見直すことになればなおさらです。 ショッピングやレジャーの施設、特に体験消費支出の要素が強いものやディスカウントストアの要素を有しているものは、再開発の追い風から引き続き恩恵を受けると思われます。 リテール不動産の分野では既に変化が見られます。変化する需要に対処できる強力な運営者が運営する再利用可能な物件は、嵐を切り抜けるのに有利な立場にあります。とはいえ、テナントは消費の動向を見極めるために、ターンオーバーリース(家賃と売上高に応じた体系)の導入を検討するかもしれません。
記録的な人手不足が賃金上昇の圧力になっている
2021年の実質GDP成長率は、消費主導の回復に支えられ新型コロナウイルス感染症拡大以前の水準に戻りました。しかし、今やパンデミックから物価に焦点が移り、英国は経済的な逆風に直面しています。 現在のインフレ傾向は世界的なものですが、英国の事情は他国とは微妙に異なります。英国は欧州経済に比べてエネルギーのロシアへの依存度が低いにもかかわらず、ブレグジットの影響で供給側の制約が大きく、国内のインフレ率を押し上げています。 従業員が自分の生活を見直すことによって引き起こされた「大退職 (Great Resignation)」は、労働力とスキルの不足をもたらし、賃金を押し上げて、インフレ圧力に拍車をかけています。 同時に金利の上昇は、住宅ローンのコストの上昇を意味し、短期的には消費に悪影響を与える要因です。 マイナス要因が台頭してきた一方、堅調な雇用情勢と所得の増加は家計を支え、生活費の上昇を軽減します。 また英国には、度重なるロックダウンの中で蓄えられた多額の貯蓄を経済に還流させる潜在力があります¹。 こうした経済成長の種はまだ残っており、経済が現在の課題を克服していく中で継続的な成長を支えるはずですが、スタグフレーションは依然テールリスク (確率は低いが、発生すると大きな損失をもたらすリスク) であることを示唆しています。
電子商取引は落ち込むのか
¹ 出所:Bloomberg「UK Consumers Add £27 Billion More to Bank Saving Accounts at End of 2021」2022年3月.
手頃な価格での住宅取得は困難になってきている
生活費の高騰を背景に、住宅危機が再びクローズアップされそうです。住宅価格の上昇は所得の伸びを上回る勢いであるため、既に不動産を所有している人々には恩恵がありますが、これから住宅を購入する人々にとっては、さらに手の届かないものになっています。 手頃な価格の住宅の購入には強烈な逆風が吹いています。住宅価格と住宅ローン費用が上昇すると購入が難しくなり、建設費の上昇は供給不足の可能性を示唆しています。若年層や低所得者層がその影響を受けやすく、より長く賃借する必要性が高まっています。 民間賃貸住宅に対する需要は前例のないほど強く、収入の増加に支えられて、賃料は大幅に上昇する見通しです。この意味では、民間賃貸住宅はより高いインフレ環境に対応できる特性を備えているように見えます。 一方、家計はどのような影響を受けるのでしょうか。持ち家であっても借家であっても負担は大きくなります。食料や燃料などの必需品が収入に占める割合が増えるにつれて、手頃な価格の住宅へのニーズはますます高まっています。 民間賃貸住宅の魅力的でディフェンシブな特性は、投資家の参入を促し、需給ギャップを埋めることで高いリターンと、重要なことですが、必要とされている手頃な価格の住宅を提供することになります。
嵐に直面する手頃な価格の住宅
ロックダウンが遠い過去のものになるにつれて、体験消費への支出が製品を上回る
英国 国家統計局、2022年4月
出所
「Nationwide March Spending Report」2022年4月
Nationwide、2022年第1四半期
Record high job vacancies are putting upwards pressure on wages
出所:「Nationwide March Spending Report」2022年4月
Real estate has witnessed the hottest UK logistics market in decades, as the pandemic further drove online consumption and logistics operators scrambled to bulk up their supply chain networks, already distorted by Brexit. But as UK consumers start to feel the pinch of rising living costs, the purse strings could tighten for discretionary retail spending. Experiences may also win out over goods, with the shackle of lockdowns behind us. This is the first time e-commerce has faced a significant consumer squeeze. Could this take the heat out of the logistics market? Especially as profits are squeezed and occupiers reassess their growth plans. Shopping and leisure destinations should continue to benefit from the tailwinds of reopening, particularly those with a strong experiential element or a bias towards discount retailers. The retail property sector has already seen a shake up; repurposed assets with stronger operators are better positioned to weather the storm. That said, occupiers may seek turnover leases to hedge their bets on consumer spending.
Spending on experiences may outweigh goods as lockdowns fade into the distant past
出所:英国 国家統計局、2022年4月
出所:Nationwide、2022年第1四半期
今こそ欧州のエネルギー安全保障を取り戻すとき
少なくとも今後数年間はインフレが続くと予想され、土地の取得、建設、労働費用の上昇は投資家にとって諸刃の剣となりそうです。 コストの上昇は、新規供給の採算性を低下させるため、欧州賃貸不動産市場の成長見通しにとって好材料です。既に供給が制限されているドイツやオランダなどの市場では、特に上昇する可能性があります。 しかし、コストの上昇は、新規開発案件への投資機会を求めている投資家にとっては、コストの上昇を意味することもあります。最近の調査によると、不動産会社の88%が建設費の上昇を懸念しています¹。 多くの企業が、建設プロジェクトの遅れと、鉄鋼や木材の価格上昇 (30%~100%) に直面しています。 ただ、このような圧力はいつまでも続くものではありません。新型コロナウイルス感染症が引き起こしたサプライチェーンの混乱は今後12〜18か月で解消され、世界的なコモディティ価格の上昇が緩やかになるにつれて、コスト上昇の圧力は収まり始めると考えられます。
ロシアの天然ガスへの依存度
ウクライナ戦争は欧州におけるエネルギー価格に打撃を与えています。インフレ率は過去数十年で最も高い水準にあり、各国政府と欧州中央銀行 (ECB) は、インフレの長期化を食い止め、エネルギー安全保障を回復するために、難しい決断を迫られています。 欧州では、マイナス金利脱却を求める圧力が高まっています。また、政策立案者は、今年中にロシアからのガス輸入量の3分の2に削減し、2027年までに化石燃料の輸入を全面的にゼロにする計画を打ち出しています。 欧州における天然ガスの消費量が生産量の2.5倍であることを勘案すると、ロシアからのエネルギー輸入をゼロにすることは簡単な決断ではありません。また、ロシアに対する依存度が非常に高い国も存在します。 欧州委員会は、既に2030年の発電容量目標の見直しに着手しており、グリーン水素、風力、太陽光など、自国及び再生可能エネルギー源への投資により、発電容量を3倍にするという遠大な構想を発表しています。これは最終的には、将来起こり得るエネルギー価格上昇による物価上昇に対する保険として機能すると思われます。 より環境に優しく、より安定したエネルギーへの移行は、現在のインフレ環境によって緊急性が高まっています。ある程度の経済的混乱も予想されますが、その波及効果により、不動産ポートフォリオの脱炭素化など、欧州市場全体が進展すると思われます。
建設費の上昇は諸刃の剣になり得る
建設費の上昇は新規の供給を抑制し、入居率を上昇させる要因
賃貸物件は「資産のアップグレード」に焦点を当てる必要があります
インフレ率が上昇しており、「不動産はインフレ対策になる」という格言が試されることになりそうです。 欧州の不動産は他地域に比べて有利な立場にあります。ほとんどの商業用不動産の賃料は、物価上昇率に連動しており、年次または月次で見直されます。ただし、賃貸契約はいずれ満了を迎えるため、テナントが契約を履行できるかは、新型コロナウイルス感染症やコスト上昇圧力の影響を受ける可能性があります。 オーナーは、単に賃料収入が増加することを期待するだけではいけません。物件種類を問わず、不動産物件に対するテナントの要求は増しています。 最近の調査によると、物流業者の67%が現場での再生可能エネルギー (自家発電設備) を運営上望ましいと考え、50%が倉庫の断熱性の向上を求めています¹。そのためには資産物件のアップグレードに投資する必要があります。特に投資家が賃料の上昇を維持したいと考えている場合は、このような投資が必要となります。 また、テナントと協力し、コスト面でのプレッシャーを軽減することも重要です。例えば、真に手頃な価格の住宅を提供することは、生活費が上昇しているなか、賃料を持続可能な水準に維持することを意味します。 物件のアップグレードを行うオーナーは、結果として長期的にインフレに強いポートフォリオと、長期間にわたって借り続けてくれるテナントを獲得できるなど、将来的には利益を享受することができると考えられます。
アップグレードにより資産価値を高める
¹ 出所:Tritax EuroBox & Savills「2021 European Logistics Census」
¹ 出所:PWC 「Emerging Trends in Real Estate Europe」2022年
Eurostat「Capital Economics」2022年5月
M&G Real Estate、2022年5月
注: チャートはイメージです。 出所: M&G Real Estate, May 2022.
出所:Eurostat「Capital Economics」2022年5月
予測は保証されません。
距離が離れているだけでは不十分
世界の多くの国と同様、日本でも消費者物価の上昇が顕著になっています。通常に比べて高いとはいえ、インフレ率は他国よりはるかに低い水準にとどまると思われます。 サプライチェーンの混乱が収束し、ディスインフレ傾向が復活することを前提に、中央銀行のハト派的な姿勢は継続されると想定しています。 日本の低金利環境が長く続き、対国債比の不動産利回りは、他国と比較して魅力的な価値を提供し続けると思われます。海外投資家にとって、日本は比較的安定しており借入コストも低いのはメリットです。足許の円安と相まって、この魅力はさらに高まる可能性があります。 ファミリー向け集合住宅は、過去のさまざまな経済ショック時において強い耐性を備えていることを実証しており、インカム収入を求める投資家の主要な焦点であり続けると思われます。 持続可能で効率的な都市部の物流・配送センター物件への投資により資本成長の可能性が期待されます。 日本ではテナントに優しい賃貸契約ですが、現在のインフレ環境ではテナントがより慎重なアプローチをとるため、有利な内容での契約は必ずしも容易ではない可能性があります。
良好なアジア太平洋主要都市のファンダメンタルズが経済成長をさらに後押しする
アジア太平洋地域では雇用と賃金が持続的に伸びているなか、ほとんどの国では新型コロナウイルス感染症に関連する規制の緩和が進んでいることで、国内での消費や観光に対する需要が強まっています。 しかしながら、経済成長の度合いは貿易の混乱やインフレが収束することに依存すると思われます。 戦争が起きているウクライナからは、地理的にも、貿易量においても離れていますが、商品や食料の価格上昇は止まらず、消費者はインフレ圧力を感じ始めています。 アジア先進国は、化石燃料を輸入に大きく依存しているため、特に大きな影響を受けています。一方、オーストラリアは商品輸出の増加による恩恵を受けています。 インフレ率の上昇は、中国が主要都市において新型コロナウイルス感染症のまん延を封じ込めるためのロックダウン策を強化していることと重なり、サプライチェーンのボトルネックはさらに規模が大きくなっています。 米ドル高によって急速に輸入コストが急上昇したことなどでインフレは加速しており、政策立案者は、インフレ抑制のために、より速く力強い行動を取ることが求められています。
世界と異なる動き
日本:ディスインフレに戻ることにより債券利回りの低迷は続く
日本の不動産利回りは対国債比で魅力的な水準
アジア太平洋地域における新規のオフィス供給は以前から不足していたが、建設費の上昇がそれに拍車をかける
世界的に物価が上昇しているなか、拡大を続けるアジア太平洋地域のオフィス市場ほどインフレに強い市場は世界を探しても存在しないと思われます。 アジア太平洋地域のオフィスの賃貸契約期間は平均して3年と比較的短いため、オーナーは早期にインフレ上昇を賃料に反映させることができます。規模の大きなテナントの場合、リース期間が長くなると、通常、賃料の段階的引き上げ条項が織り込まれています。 ソウルやシンガポールなどのオフィス市場では、デジタル産業への移行といった長期的な構造的トレンドを背景に、今後3年間はインフレ率を上回る賃料上昇が見込まれています¹。 ハイブリッド勤務 (オフィス勤務とリモートワークを合わせた働き方) がそれほど普及していないため、労働者のウェルビーイングをサポートするプライムオフィス物件に対するテナントの需要が拡大しています。グーグルモビリティのデータによると、韓国ではパンデミック期間中のオフィスの利用率は75%を下回ることはなく、その後はパンデミック以前の水準を上回っています²。 しかし、安定したインカム収入とテナントとの長期契約は、投資家が資産を求めて競合が激しいため、それなりの代償が伴います。借入コストの上昇の影響もあり、収益確保の面で課題になると考えられます。
インフレ環境を克服する
¹ 出所:PMA、2022年5月現在. ² パンデミック以前のデータと比較。出所:Google Mobility、2022年月現在
Oxford Economics, as of April 2022.
Oxford Economics as of April 2022.
注) オーストラリア、香港、日本、シンガポール、韓国などのアジア太平洋地域先進国のデータ 出所:PMA、2022年4月、M&G Real Estate
M&G Real Estate based on data from PMA and ARES as of April 2022.