不眠症を抱えて生きるとはどのようなことなのか、みていくことにしましょう。
はじめる
「 不眠症は、疲労以外、何も感じることができないのです。不眠症のせいで、嬉しいことがあっても、楽しむことができません。それどころか、ひどく疲れてしまうのです。」
—患者
私たちは人生の約3分の1を眠って過ごします。したがって、質の良い睡眠は私たちの健康と幸福に欠かせません¹。私たちは歩くことや呼吸することと同じように眠れて当然と思っています。しかし、よく眠れず苦労している人、つまり不眠症にかかった人ではどうでしょう?不眠症は普段の生活にどのような影響があるのでしょう?ここでは、不眠症とそれをとりまく状況について紹介します。
はじめに
「『そんなに疲れているのだったら、眠れるはずでしょう。』と言われるのが本当に辛いです。そんなに簡単なものだったらどんなにいいか。不眠症にかかったことがない人には、このつらさが想像できないのでしょう。」
—患者
このebookについて
このebookは、不眠症への理解を深めるための資料として、Idorsia Pharmaceuticals Ltdが作成し、日本語版に編集したものです。診断方法や治療方法など、不眠症に関する最新情報についてまとめた内容となっています。本資料では、不眠症と診断された人の生活とその周囲の人に不眠症が及ぼす影響について取り上げています。また、不眠症の人が睡眠の質を改善するためにできる対策について説明します。
本資料は、一般の方を対象としています。
このebookについて
不眠症の理解
ほとんどの人が夜は眠れて当たり前と思っています。私たちも時には一晩眠れなかったり、あるいは何日か睡眠が浅かったりするのを経験しますが、通常は特別な治療を要することなく問題は改善します。大抵の場合、睡眠について考えることもなく、また眠りにつくことができるようになることが多いのです。
不眠症は、日中の活動に影響を及ぼす持続的な疾患です。睡眠の質が悪いと、集中力や効率的な作業、さらに運転技能に至るまで、日常生活のあらゆる面に影響を及ぼす可能性があります²。
安らかな眠りを回復するために薬物療法が行われますが、副作用が出現したり、長期使用には適さないなどといった問題があります。自分で行う睡眠改善プログラムの中には、睡眠の質を回復するのに役立つものがいくつかあります 。
睡眠とは
不眠症について詳しく考えていくにあたっては、睡眠とは何かを理解しておくことが大切です。睡眠は、私たちを意識のある状態から意識のない状態へと導く不思議な仕組みです。ただ、この複雑な仕組みの詳細は、いまだに十分わかっていません。
睡眠をとれない場合と比べて、食事をとれない方がまだ3倍長く生きることができると言われています 。
睡眠時間は何時間必要ですか?¹¹
米国の国立睡眠財団(National Sleep Foundation)が発表した専門家コンセンサス勧告による年代別の望ましい睡眠時間。睡眠およびその他医学分野の専門家が過去の研究などを参考にまとめたもの。年代ごとに望ましい睡眠時間の幅は広いが、年齢とともに睡眠時間が少なくなる。
睡眠時間は何時間必要ですか?
人によって異なり、決まったものはありません。なかには最小限の睡眠量でも十分な日中の機能を維持できる人もいます。
これまでの研究から1日の睡眠時間は年齢により変わりますが、平均すると新生児で14~18時間、成人で7~8時間、高齢者で5~6時間です。
こうした睡眠の量と同様に睡眠の質も重要です。
レム睡眠とは?
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レム睡眠とは?
急速な眼球運動を伴うレム睡眠は一つの睡眠周期の終わりに出現します。
その名のとおり瞼の下で眼球が素早く動いており、脳は活発に働いていますが、筋肉が弛緩しているため私たちは四肢を動かすことができません。
成人では、一晩のレム睡眠は合計で2時間ほどです。
私たちの見るほとんどの夢はレム睡眠中に起こっています。
ノンレム睡眠とは?
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急速な眼球運動を伴わないノンレム睡眠は、3つの段階に分けられ、段階1および段階2は軽睡眠、段階3は深睡眠と呼ばれます。深睡眠はまさに回復を促す睡眠で、私たちの心と身体を修復するのに重要です。
平均して、ノンレム睡眠は成人の総睡眠時間の75~80%を占めています。
ノンレム睡眠とは?
睡眠段階とは?
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睡眠段階とは?
私たちの睡眠は、急速な眼球運動を伴わないノンレム(NREM)睡眠と急速な眼球運動を伴うレム(REM)睡眠という2つの異なった睡眠状態から成り立っています。
ノンレム睡眠はさらに3つの段階(1~3)に分けられます。
休息できたと感じるには、これら全ての睡眠段階がバランス良くとれることが重要です。
睡眠のパターンは、就寝後、時間とともに変化します。一晩の睡眠で大部分を占めているのはノンレム睡眠の段階1および段階2、そしてレム睡眠です。
通常記憶に残りませんが、私たちは一晩に数回1~2分間にわたって目を覚ましています。
健康な成人が夜間7時間の睡眠をとる時、まどろんだ状態 (ノンレム睡眠段階1) 、すやすや眠る状態 (ノンレム睡眠段階2)、ぐっすり眠る状態(ノンレム睡眠段階3)とノンレム睡眠が深まっていく。そして、寝返りの後、しばらくして最初のレム睡眠に移行する。
入眠から最初のレム睡眠までの時間は約90分くらいで、その後ノンレム睡眠とレム睡眠は交代しながら90〜120分の周期で繰り返し出現している。朝に近づくにつれてレム睡眠が増えていく。
健康成人の睡眠経過図¹¹
眠っている間に起こっていることは?
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睡眠は、私たちの身体と脳を修復し回復させるのに不可欠です。
睡眠のプロセスは複雑です。睡眠のパターンや構造はしばしば「睡眠構築」と呼ばれます。
睡眠中、私たちの心拍は低下し、体温は下降して、脳の活動が変化します。外部からの刺激は遮断され、筋肉は弛緩し、時には完全に脱力します。
一夜の睡眠中で、およそ90分の周期が平均4回ほど繰り返されます。
睡眠と覚醒の制御には、神経伝達物質(細胞間の情報伝達物質)および神経修飾物質(情報伝達物質の働きを調節する物質)と呼ばれる多くの体内物質が関与します。これらには、ドーパミン、オレキシン、ヒスタミン、アセチルコリン、ノルエピネフリン、グルタミン酸、GABA、アデノシンおよびセロトニンが含まれます⁹。
眠っている間に起こっていることは?
「私自身、とても短い睡眠時間で仕事をこなしていることにいつも驚かされます。これに慣れていくのかもしれませんが、長期的に見ると健康に被害があるのではないかと気になります。」
—患者
不眠症とは?
不眠症は短期間のちょっとした睡眠の不調とは異なり、身体的および精神的な健康を犠牲にするおそれがあります。不眠症の定義は、明らかに睡眠を妨げるものがなく、眠るのに適した状況が確保されているにもかかわらず、少なくとも週に3日、3ヶ月以上にわたって、睡眠が困難で睡眠の質や量に不満がある状態です²。不眠症は、疲労感、集中力不足、気分の低下などにより日中の活動・機能に悪影響を及ぼし、かかった人を非常に悩ませることになります。
不眠症では、入眠困難、睡眠維持困難、早朝覚醒など種々の睡眠困難が単独または複数見られます²。
不眠症の種類
最近では、その経過から不眠症を分類するようになりました。1ヶ月以上3ヶ月未満続く一時性不眠症、3ヶ月以上続く持続性不眠症、1年間にわたり3ヶ月以上の持続性不眠症が少なくとも2回発現する再発性不眠症があります²。
不眠症の種類
不眠症の種類
不眠症の種類
現在、不眠症は、その他の医学的問題を伴っているかにかかわらず、医療が関与する必要のある病態と考えられています 。
不眠症は、不眠障害とも呼ばれ、70を超える睡眠・覚醒障害の中の一つの障害群です。ここでいう睡眠・覚醒障害の中には、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(気道が閉塞するため睡眠が妨害される)、概日リズム睡眠・覚醒障害群(概日リズムの不調による病態)、睡眠時随伴症群(悪夢障害、睡眠時遊行症、夜驚症など)、ナルコレプシー(日中の過剰な眠気)などが含まれます²。
以前は、不眠症をその原因から2種類に分類していました。他に原因が見つからない原発性不眠症と、その他の病態に伴って生じる二次性不眠症の2つです¹²。
何が睡眠の問題を引き起こし、誰がそれにかかるのか?
「睡眠の問題は私たちに小さな子供がいた頃から始まりました。子供たちが出ていって随分長い時間たつのに、眠れなかった夜の辛さが精神的ダメージの記憶として頭の中に残っているのです。睡眠が足りなくなってしまうという疑心暗鬼が長く続いています。」
—患者
よく眠れない状態は、思い当たる理由もなくだしぬけにおこることもありますが、背景にある原因やその引き金を実際に特定できることもあります。
多くの場合、睡眠パターンへの悪影響は一時的であり、外的要因が解決さえすれば状況は改善するものです。しかし、人によっては、よく眠れないことが習慣化してしまうことがあります。十分な睡眠がとれないのではという恐怖はストレスや緊張を高め、それがまた睡眠の問題を悪化させ、悪循環に陥ってしまうのです。
不眠症の頻度とかかりやすい人は?
関連する原因¹³
睡眠全体の質に満足できなかった人 (2019年)
日本全国 男性2667人 女性3035人
不眠症の頻度とかかりやすい人は?
睡眠の問題は頻度が高く、世界的に成人のおよそ3分の1がよく眠れないという睡眠困難の症状を経験し、10〜15%がよく眠れないために日中に支障を感じており、6〜10%が不眠症の診断を満たします²。
不眠症はすべての年齢層にみられますが、年齢が上がるにつれて多くみられるようになります 。
不眠症は、男性よりも女性で多くみられます 。
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14,15
関連する原因
睡眠の問題や障害は次のような状況でしばしば起こってきます。
転居、家族の喪失などのライフイベント
仕事上のストレス
時差ぼけや交代勤務
心臓病、疼痛またはむずむず脚症候群といった医学的な問題
処方薬使用(ステロイド、利尿薬、一部の抗うつ薬)
睡眠環境の不良(過度の騒音や光、あるいは寝心地の悪いベッドなど)
刺激物の過剰摂取(アルコール、カフェインまたはニコチンなど)
うつ病や不安症
不眠症の診断および治療
多くの場合、不眠症は診断されぬまま、治療されぬまま放置されています。調査によれば、不眠症が持続している人でも、そのうち約70%は病院を受診していません 。
不眠症は、通常かかりつけ医によって診断・治療されていますが、精密検査のために睡眠専門医や睡眠専門クリニックに紹介されることもあります。特に睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合にはこうした紹介が行われます。
不眠症を診断する方法は?
いつ医師の診察を受けたらいいか?
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いつ医師の診察を受けたらいいか?
何かのきっかけで一時的に眠れなくなるのは必ずしも病的なことではなく、これら全てが不眠症と関連しているわけではありません。多くの場合、自ら行う対処法で正常な睡眠パターンを取り返すことができます。
眠れないために日常生活に悪影響が出ている場合や、数週にわたって続く場合には受診するのが良いでしょう。
不眠症を診断する方法は?
かかりつけ医は、病歴、睡眠パターン、症状および生活習慣について患者さんとよく話し合って、背景にある病態を探します。
時に、症状やコーヒー、茶、アルコールなどの摂取について日記をつけるよう勧められます。
アクチグラフ(活動を記録する装置)を数日間装着するよう指示されることがあります。
これら以外に、睡眠ポリグラフ検査を受けるため専門の睡眠クリニックを紹介され、一泊して睡眠中の脳活動(脳波)、眼球運動(眼電図)、筋活動(筋電図)を同時に検査することもあります。
この検査を行うことで入眠困難と睡眠維持困難を区別してとらえることができます。
不眠症に対して用いられる治療法は?
不眠症の原因や重症度に応じて、様々な治療法が試みられます。主な選択肢には、「睡眠衛生」指導、認知行動療法、短期間の睡眠薬やメラトニンの投与があります。背景に不眠症以外の医学的問題がある場合は、そちらを治療するための薬物療法も行われます 。
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5,6
3,4
睡眠衛生指導
この手法の目的は、望ましい睡眠習慣を確立し、睡眠の質を改善することです。基本要素として、規則正しい睡眠時間帯、日中に昼寝をしないこと、安らかな睡眠環境、規則的な運動習慣、刺激物の制限、リラックス法、ベッドで過ごす時間の制限が含まれています。
これらについては、「実践的な手引き」の項で詳しく述べます。
認知行動療法
認知行動療法は、睡眠を妨げるような考え方や行動を避け、それらを変えるための言語的療法のひとつです。心理学的な手法を用いて、より良好な睡眠パターンや睡眠についての望ましい見方や考え方を身につけます。
刺激制御療法や睡眠制限療法などの不眠症特異的な方法について指導が行われます。
これらの点については、「実践的な手引き」の項で詳しく述べます。
実施している施設が少ないため、この治療を受けるために長く待つことも多いようです。ここでは認知行動療法の背景にある原理原則を紹介します、ぜひ自分で実施してみてください。
睡眠薬
これまで述べたような手法がうまくいかなかった場合には、正常な睡眠を取り戻すため、睡眠薬の処方が行われます。日本では、ベンゾジアゼピン受容体作動薬(ベンゾジアゼピン系または非ベンゾジアゼピン系)、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬などが不眠症治療に用いられています。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、抗不安薬と基本的に同様な鎮静作用により眠りをもたらす薬剤です。この鎮静作用のため中途覚醒した際にねぼけたような行動が副作用として見られることがあります。鎮静作用が翌朝まで残ってしまうと「持ち越し」効果と呼ばれる眠気やぼんやり感が出現します。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、全身の筋肉を脱力させる作用を持っています。このために脱力による転倒などの副作用がおこることがあります。この点を改良したのが非ベンゾジアゼピン系と呼ばれる薬剤です。この系統の薬剤は時に依存の危険性があることから、日本では漫然と長期にわたって使用しないように国の指導がなされています。
メラトニン受容体作動薬は、夜間に脳内で産生されるメラトニンと同様に、体内時計系に働きかけて身体を夜の休息状態とし、睡眠をもたらす薬剤です。全身の筋肉を脱力させる作用がほとんどなく、入眠困難を改善する作用を持ちます。
オレキシン受容体拮抗薬は、脳内にある、目覚めた状態を保持するための神経系への指令に関与するオレキシン受容体を遮断する作用を持っています。全身の筋肉を脱力させる作用がほとんどなく、入眠困難と睡眠維持困難に効果があります。
市販のハーブサプリメントや睡眠改善薬と呼ばれる抗ヒスタミン剤が販売されています。
その他の病態に対する薬物療法
睡眠に影響を及ぼすようなその他の病態、例えば、関節炎に伴う疼痛、むずむず脚症候群、うつ病、心臓病および更年期に伴う寝汗などを治療するために、これらに対する薬物療法が行われることがあります。
「困難を抱えている時に、不眠症はあらゆることを妨げます。これにかかると、仕事、外出、運動など何もかもがひどく骨の折れることに感じられるようになります。こんな時、だれもが良い睡眠をとることで頭がいっぱいになると思います。私も心の底ではそのような気持ちがあります。しかし、私はあまり考えすぎないよう努めています。」
—患者
不眠症のもたらす悪影響
不眠症による生活への悪影響は軽視されがちです。実際に、不眠症は生活の質を低下させる苦痛に満ちた病態です。学業や雇用から社会活動や人間関係に至るまで、日常生活のあらゆる面に影響を及ぼしえます。
不眠症は経済的に重大な悪影響をもたらし、交通事故や産業事故、それによる外傷のリスクを高めます。
仕事および雇用
不眠症は、職場での欠勤や生産性低下の主要な原因となっています。不眠症の世界的な経済損失は、毎年約1,000億米ドルと推定されています 。
不眠症の人は、よく眠れている人と比べ、日中の集中力が低下する可能性が3倍、精力低下に苦しむ可能性が2倍高くなります 。
21,22
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感情面の安定
不眠症の人は、正常な睡眠パターンの人に比べ、気分の落込みやうつ状態となる可能性が3倍高くなっています¹³。
睡眠について思い悩むことはストレスの原因となる可能性があり、悲観的な思考パターンになり、眠ることがさらに困難になるという悪循環に陥ることがあります。
友人と家族
眠れない夜の翌日には、イライラ感やすぐれない気持ちを感じることが多く、人間関係にも悪影響を及ぼすことがあります。
不眠症に苦しむ人は、運動や社会活動に参加する活力やモチベーションが欠乏しがちです。
不眠症による真の悪影響について家族、友人、同僚が理解していないと、不眠症にかかった人は、だれも協力してくれない、わかってくれないと感じることがあります²²。
不眠症と事故
不眠症は事故や外傷のリスクを高めます。
運転者が疲労すると運転中の反応に悪影響が出ます。実験では、17時間睡眠をとらないだけで、アルコールを2杯飲んだ場合と同じくらいの作業速度低下および作業ミスが起こります²³。
欧州全体の調査統計によれば自動車事故の約20%は疲労と関係していると推定されています²⁴。
米国睡眠財団によると、米国における年間100,000件の自動車事故が「居眠り運転」、つまり睡眠不足で集中力が低下した状態で発生していると推定されています 。
英国では労働災害に関連して、疲労により1億1,500万~2億4,000万ポンドのコストが生じていると安全衛生庁が推定しています 。
「朝、目が覚めた時に、今日一日どうやって乗り切ればいいのかと感じることがあります。なんとか一日を乗り切ることができても、これは大変な苦闘です。」
—患者
不眠症に対処するための実践的手引き
不眠症の人が身体的および精神的健康度を向上させ、睡眠の質を改善するためには、実践的な対策を講じることが大事です。ここでは役にたつ戦略の概要を示します。
積極的な管理を行う
睡眠の質を改善するための取り組みには、非常に効果的なものがあります。生活習慣や睡眠に対する姿勢への小さな改善であっても、良好な睡眠を得る助けになるので、根気よく続ける価値があります。また、一つの手法で効果がなくても、その他の手法を試す価値は十分あります 。
情報に通じる
睡眠の質の改善に関する情報は非常にたくさんあります。
一過性に眠れない経験をするのはよくあることです。一時的によく眠れないことがあっても、そのうち自然に解決するものだということを理解していれば、不眠症に伴う不安を軽減することができます。
睡眠日誌をつけるのも有用な方法です。2週間にわたり、睡眠の量や質を毎晩書きとめ、ストレス、食事および運動など睡眠に影響しうる要因についても記録します。
小型フィットネス・トラッカーには睡眠を記録できるものがあり、リストバンドや衣服に装着するタイプのものがあります。これらの機器は睡眠状態の大まかな目安を示してくれますが、必ずしも正確で信頼性の高いものではなく、実際には眠れないことへの不安を高めてしまうこともあります。
それでも眠って休息を取るのが難しい場合、かかりつけ医の診察を受けましょう。
より良い睡眠をとる方法
刺激物を避ける
活動性を高める
私たちが日常的に食べたり飲んだりするものの中には、睡眠の質に影響を与えるものがあります。中枢神経系を刺激して、睡眠を妨げてしまうような物質や行動があります。
就寝前約4~6時間は、お茶、コーラ、チョコレートなどカフェインを含む製品の摂取を避けましょう。代わりに、カフェインの入っていない製品やハーブティーもあります。
アルコールは少量でも睡眠を妨げるおそれがあります。睡眠の後半で目が覚めやすくなったり、起床時に疲労感を増強することがあります。
就寝直前に大量の食事をとると、消化が悪くなるので避けましょう。
喫煙も睡眠に悪影響を与え、禁煙や減煙は長期的に睡眠の改善につながることがあります。
疲れている時には運動を避けるようになりがちですが、運動は睡眠の改善に役立つのです。
どんな運動でも有益です。たとえ短い散歩であっても構いません。少なくとも週5日に渡って毎日30分の適度な運動をすることを目標にしましょう。
ただし、遅い時間帯に激しく刺激の強い運動をするのは避けた方がよいでしょう。
睡眠に特化したアプローチ
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「夜中に暗い寝床の中で目覚めている時、信じられないほどの孤独感を感じます。翌日にすることが気になり、心の中は不安や緊張でいっぱいになります。真夜中には何もかもうまくいかないように思えてくるのです。」
—患者
寝室を自分だけの安らぎの空間に
寝室を自分だけの安らぎの空間に
当たり前のように思えるかもしれませんが、良好な睡眠環境は安らかな睡眠のために不可欠です。
光が多すぎるとメラトニンの産生に影響を与える可能性があるため、就寝時は光を制限しましょう。遮光ブラインドやカーテン、アイマスクは光を遮断する助けになります。
耳栓やノイズキャンセリングイヤホンは、外部からの騒音が問題になる場合に役立ちます。
寝室のパートナーがいびきをかく場合は、病院を受診してもらうようにしましょう。
ベッドや寝具は背中に優しく、心地よいものを使用しましょう。
寝室は暑すぎず、寒すぎないよう温度調節することが大切です。天然素材の寝巻や通気性の良いベッドパッドを使用することで、暑くなりすぎるのを避けましょう。
夜中に覚醒した時に時刻をいちいち確認していると、人によっては眠れないことへの不安が高まってしまいます。時計にカバーをしたり、表示板のスイッチを切って時刻が見えないようにすると効果的です。
刺激制御療法
刺激制御療法
刺激制御療法は、不眠症に対する認知行動療法の一環として使われる特異的な療法で、眠ろうとしてうまくいかなかったためにできた好ましくない連想パターンを克服することを目的とします。主要な原則は以下のとおりです。
眠くなってから寝床に入りましょう。
寝床は眠るためだけに使い、そこでテレビを見たり、本を読んだり、何か仕事をしてはいけません。
20分以上眠れなかったら、寝床から出て何か他のことをしましょう。そして再び眠くなったらベッドや布団に戻りましょう。
目覚ましをセットして毎日同じ時刻に起きましょう。
午後の昼寝は避け、週末は遅くまで眠っていないようにしましょう。
睡眠制限療法
睡眠制限療法
睡眠制限療法は、夜間に寝床で過ごす時間を制限するために作られたプログラムです。通常この療法は、認知行動療法の一環として行われます。主要な原則は以下のとおりです。
日記をつけて、一晩で実際にどのくらいの時間眠ったか確認しましょう。
寝床で過ごす時間を制限して実際に眠っていた時間に合わせます。毎日同じ時刻に起きましょう。
より長く眠っていられるようになるまで、寝床で過ごす時間を徐々に調整していきましょう。
電子機器から離れる
電子機器から離れる
多くの人は、一日の大半を携帯電話やタブレットをチェックしたり、パソコンで作業をしたりして過ごしています。
これら機器の画面から発せられるブルーライトが強いと、メラトニンの分泌を抑制し、結果的に睡眠を妨げる可能性があります。
理想的には、寝室から電子機器をなくし、就寝前の1時間は携帯電話やパソコンなどの電源を切るのが賢明です。
寝室にテレビを置かないのも重要です。
身体をリラックスさせる
身体をリラックスさせる
規則的運動は、安らかな眠りを取り戻すのに役立ちます。
マッサージ、リフレクソロジーや鍼灸などの補完療法はリラックス効果がありますが、信頼できる経験豊富な施術者を見つけることが重要です。
就寝前の程よく温かい(熱くない)入浴はリラックス効果があります。
就寝前の軽いストレッチ運動は、身体をリラックスさせるのに役立ちます。
ヨガや漸進的筋弛緩法を学ぶことは、不眠症の方にとって有益です。
心を穏やかにする
心を穏やかにする
不眠症を抱える人の多くは、就寝時に精神活動のスイッチを切ることができません。
眠れないことを気にしていると、さらに眠れなくなるので、その悪循環を断ち切ることが大切です。
就寝の90分前になったら、精神的刺激になるものを避けましょう。ここに含まれるのは刺激的内容のテレビ番組、ビデオや本などです。
マインドフルネス、瞑想、ビジュアライゼーション(イメージ療法の一種)などは、激しい心の動きを落ち着かせるのに効果的です。様々なCDやオーディオガイドが購入可能であり、無料の教材やアプリをオンラインで入手できます。
寝床の側にノートを置いておき、眠りに入る前に、気がかりや心配事を書きだすことも役に立ちます。
免責事項
免責事項
本資料は、不眠症への理解を深め、疾患、診断方法、可能な治療法、不眠症と診断された方の生活に与える影響に関する情報を共有する環境を提供するため、Idorsia Pharmaceuticals Ltdが作成したものです。本資料は、一般の方を対象としています。
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はじめに
不眠症の理解
不眠症の診断および治療
不眠症のもたらす悪影響
不眠症に対処するための実践的手引き
はじめに
はじめに
はじめに
はじめに
不眠症の理解
不眠症の理解
不眠症の理解
不眠症の理解
不眠症の診断および治療
不眠症の診断および治療
不眠症の診断および治療
不眠症の診断および治療
不眠症のもたらす悪影響
不眠症のもたらす悪影響
不眠症のもたらす悪影響
不眠症のもたらす悪影響
不眠症に対処するための実践的手引き
不眠症に対処するための実践的手引き
不眠症に対処するための実践的手引き
不眠症に対処するための実践的手引き
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3,4,27
光が入らないようにする
快適な寝床を準備する
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26
リラックスできる方法を知る
ストレスとうまくつきあっていく
朝早く運動する
規則正しい睡眠習慣
就寝2~3時間前に健康に良い食事を取る
カフェインを控える
眠くなってから寝床に入る
日本語監修東京足立病院院長日本大学医学部 精神医学系 客員教授東邦大学医学部 精神神経科 客員教授内山 真 先生
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